読み手を再定義する、2020年代の女性作家 7 選
高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』、凪良ゆう『流浪の月』、今村夏子『父と私の桜尾通り商店街』、金原ひとみ『アンソーシャルディスタンス』、西加奈子『夜が明ける』、多和田葉子『太陽諸島』、千早茜『ガーデン』。2020年代に新しい一歩を刻んだ女性作家7人を、Yomui編集部が読後の手触りとともに紹介します。
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2020年代に入ってから、日本の女性作家たちが書く小説の温度が、明らかに変わった。コロナ禍、SNS、ケアと労働、推しと自我。読者の生活に並走しながら、「自分とは何者か」を再定義する語り口が増えている。古い文学観で言う「女性らしい繊細さ」ではなく、もっと骨太で、もっとユーモラスで、もっと進化志向の声が増えた。この記事では、2020年代に新しい代表作を発表した女性作家 7 人を、それぞれ別の作家から 1 冊ずつ紹介する。文学賞の受賞作から、SNS で口伝えに広がった作品まで、「次の自分に出会わせてくれる」7 冊を選んだ。
書籍データが見つかりませんでした (ISBN: 9784065274095)。
1. 『おいしいごはんが食べられますように』高瀬隼子 — 職場の「善意」が削り出す違和
書籍データが見つかりませんでした (ISBN: 9784065274095)。
第 167 回芥川賞受賞作。地方支社のオフィスで、体調が弱い同僚・芦川さんを「みんなで気遣う」ことを当然とする職場の空気。主人公の二谷は、その「善意の総意」に違和を抱きながら、同僚の押尾さんと小さな共謀を始める。「優しさ」が「同調圧力」に反転する瞬間を、高瀬隼子はコミカルさを保ったまま冷静に解剖していく。
読み終えたあと、自分が職場や家族の中で誰の側にいたかを、読者は否応なく問い直すことになる。芥川賞作品にしては読みやすく、文庫本一冊で 2 時間ほど。ランチ休憩の延長で読み始め、夜には自分の人間関係の見方が一段階アップデートされている。そんな進化体験ができる一冊だ。
おすすめの読み方:読了後、誰かに「あなたは芦川派?二谷派?」と聞いてみてほしい。その答えで、相手と自分の労働観の差分が一気に可視化される。
2. 『流浪の月』凪良ゆう — 関係性の名前を持たない二人
書籍データが見つかりませんでした (ISBN: 9784488803018)。
2020 年本屋大賞受賞作。9 歳の更紗と 19 歳の文。社会の言葉では「誘拐犯と被害者」になってしまう二人を、凪良ゆうは「友達でも恋人でも家族でもない、ただ一緒にいたい人」として描き直す。世間が貼ってくる「正しい関係性のラベル」を、当事者の視点から剥がしていく物語。
『流浪の月』が新しいのは、被害者ぶることも加害者を糾弾することも拒否して、ただ「私たちの居場所」を取り戻そうとする更紗の語りそのものだ。SNS で他人の人生に名札を貼り合う日常に疲れた読者にこそ、この小説の解放感は届く。映画化もされたが、原作のモノローグの密度は文字でしか味わえない。読み終えたあと、自分の人間関係を「世間の正解」で測るのを少しだけやめられる。
おすすめの読み方:週末に半日かけて一気読みするのが最適。読後、しばらく散歩に出て、自分の大事な人を頭に浮かべるといい。
3. 『父と私の桜尾通り商店街』今村夏子 — 日常から、ふっとずれていく
書籍データが見つかりませんでした (ISBN: 9784041118962)。
『むらさきのスカートの女』で芥川賞を獲った今村夏子の、商店街を舞台にした連作短編集。畳むことに決めたパン屋の父と私、最後の営業が予想外の評判を呼んでしまう表題作をはじめ、普通の日常からほんの数センチだけずれた風景が、淡々と、しかし忘れがたく描かれる。
今村夏子の文章の凄みは、「変なこと」を「変なこと」として処理せず、登場人物の中では完全に筋が通っているように書ききる点にある。読者は途中まで「ああ、ありそうな話だな」と思いながら読み、ふと顔を上げて、自分が今まったく別の世界にいることに気づく。自分の感受性のチューニングが少しずれていく、そのプロセス自体が読書体験になる作家だ。
おすすめの読み方:短編なので 1 日 1 編、寝る前に読むのがいい。次の日、通勤路の風景が前日と少し違って見えるはずだ。
4. 『アンソーシャルディスタンス』金原ひとみ — パンデミック以後を、痛快に駆け抜ける
書籍データが見つかりませんでした (ISBN: 9784103045359)。
『蛇にピアス』でデビューした金原ひとみが、コロナ禍の最中に書いた中編集。表題作の主人公・幸希は、コロナ禍で大学が閉鎖され、彼との心中旅行に出る。閉塞のなかで「コロナみたいな天下無双の人間になりたい」と願う彼女の声には、自粛と同調の時代に対する、ひとりの女性のはっきりした反抗が宿っている。
金原ひとみは 2020 年代に入って、若さゆえの破滅ではなく、「生き延びるための激しさ」を書くようになった。読み終えたあと、自分が「いい人」でいるために我慢してきた何かに、少しだけ風穴があく。三島由紀夫賞・谷崎潤一郎賞作家の文章は、過剰なように見えて、実は読み手の体温を一段上げにくる、的確な熱量で書かれている。
おすすめの読み方:通勤の片道で 1 編。読後、SNS のタイムラインを閉じて、自分の本音を 3 行だけメモすると、文章の熱が定着する。
5. 『夜が明ける』西加奈子 — 「助けて」と言える社会のかたち
書籍データが見つかりませんでした (ISBN: 9784103070436)。
7 年前に逝った友・深沢暁を、語り手の「俺」が思い出していく長編。貧困、虐待、ブラック労働、ケア。日本社会が個人に押し付けてきた重荷を、西加奈子は登場人物の身体に丁寧に着せていき、それでもなお「助けて」と言うこと、人を助けることの可能性を信じ抜く。
『サラバ!』『i』を経た西加奈子が、コロナ禍をくぐった後に書き上げた渾身作。読みやすい一人称の語りでありながら、読み終えたあとに残るのは、社会システムへの諦めではなく、「自分は誰かの手を握り直せるか」という具体的な問いだ。読み手を「観察者」から「当事者」に巻き込む力で、令和の女性作家のなかでも頭ひとつ抜けている。
おすすめの読み方:500 ページ近い大作なので、3 日に分けてじっくり読むのがいい。読後、誰かに連絡を取ってみてほしい。それが、この小説のいちばん正しい受け取り方だ。
6. 『太陽諸島』多和田葉子 — 国境を溶かしていく、旅の物語
書籍データが見つかりませんでした (ISBN: 9784065291856)。
『地球にちりばめられて』『星に仄めかされて』に続く、多和田葉子のヨーロッパ三部作完結編。国家がなくなった近未来、母語を失った Hiruko たちは、それぞれの言葉を持ち寄って、消えてしまった故郷を探す旅を続ける。ナショナリズムが再燃する 2020 年代に、国境と言語の境界を軽やかに溶かしていく思考実験。
多和田葉子は全米図書賞翻訳文学部門を獲った国際的な作家で、ドイツ語と日本語の両方で執筆する。その越境性が『太陽諸島』では、登場人物の会話そのものに刻まれている。読みながら、自分の「日本語ネイティブ」というアイデンティティが、ふと一段ゆるむ感覚がある。自分の中の「当たり前」を進化させたい読者に、これほど刺激的な一冊はない。
おすすめの読み方:三部作未読でも単独で読めるが、シリーズで読むと感動が三倍になる。電車のなか、複数言語の混在を耳にしながら読むのがいい。
7. 『ガーデン』千早茜 — 都会のなかで、自分の領地を持つこと
書籍データが見つかりませんでした (ISBN: 9784167915407)。
植物を愛する独身男性・羽野と、彼を取り巻く女性たちを描いた連作。23 区内の小さな庭、ベランダの鉢、職場の片隅の観葉植物。「自分だけの領地」を持つことが、現代を生きる人間にとってどれほど切実かを、千早茜は植物の手触りで書いてみせる。
『しろがねの葉』で 2023 年に直木賞を受賞した千早茜は、五感に訴える文章の名手だ。『ガーデン』は受賞作の前夜にあたる文庫オリジナル短編集で、頁を開くたびに土と葉の匂いがしてくる。SNS と通知に削られた集中力を、植物の生育速度のリズムに戻してくれる。読み終えるころには、自分のベランダか窓辺に、ひとつ鉢を置いてみたくなる。読書が「自分の生活を再設計する起点」になる、そんな一冊。
おすすめの読み方:1 編ずつ、休日の朝のコーヒーと一緒に。読了後に園芸店に寄ると、この本の感想が三日後に立体的に蘇る。
結び — Yomui で、次の「あなたを進化させる一冊」に出会う
ここで紹介した 7 人は、それぞれの方法で、2020 年代の読者に「あなたは何を信じている人ですか」という問いを投げかけている。読み手は、読みながら少しずつ自分の輪郭を更新していく。それが現代文学を読む醍醐味だ。気になった作家がいたら、まずは 1 冊だけでいい。そして、次の一冊に迷ったときは Yomui のスワイプを試してほしい。あなたの読書 DNA に合わせて、1 画面 1 冊、次にあなたを進化させてくれる候補が届きます → /swipe